未知の世界に 挑戦し続ける

VOL.283 / 284

能戸 知徳 NOTO Tomonori

1988年生まれ。北海道北見市出身。11歳の頃からオフロードレースに出場。父親が経営するオフロードカスタムショップを手伝う傍らレース活動を続け、2015年よりジャオスに入社し開発部兼TEAM JAOS ドライバーとして活躍。2021年からはTOYO TIRES OPENCOUNTRY ブランドアンバサダーも務めている。

HUMAN TALK Vol.283(エンケイニュース2022年7月号に掲載)

TEAM JAOSのドライバーとして今年世界屈指の過酷な歴史あるオフロードレース「BAJA 1000」に挑戦する能戸 知徳氏。
レクサスLX600で参戦することも話題となった氏のレース人生に迫る

未知の世界に 挑戦し続ける---[その1]

 父がランクルやジムニーなどを扱う4駆のカスタムショップを経営していたので、車は小さな頃から身近な存在でした。10歳の頃、スバルのサンバーをバギー型に改造した通称『スリッパ』というオフロードバギーを父親が買ってくれたんです。さらに隣町の陸別町にあった町営オフロードコースのご厚意により、好きなだけ走らせてもらえまして。そんなこともあったので毎週のようにそのコースを走り込み、11歳で大人に混じってオフロードのレースに出場していました。それがレースへの第一歩でしたね。
 高校1年生の時には『スリッパ』のワンメイクレースが岩手県で開催されて、全国から『スリッパ』乗りが一同に集結したんですけど、そこでトップを取ることができたんです。それを見たタイヤメーカーの方から「これはもう海外に行かせましょう」と言っていただき、18歳にして初めて海外のクロスカントリーラリーへ参戦する機会を得られたんです。

18歳で『アジアクロスカントリーラリー』へ

『スリッパ』でレースに参戦

18歳で海外のラリー出場

 そのラリーというのがそれから何度も挑戦することになる『アジアクロスカントリーラリー(AXCR)』でした。マシンは三菱パジェロ、コ・ドライバーを務めてくれたのが現在勤めている株式会社ジャオスの赤星代表(当時は専務)だったんです。その時は総合12位で完走し、さらに翌年も出場して総合4位と日本人トップの成績を収めることができました。ただ、レースに出場するとなると長期間仕事を休まなければいけませんから、当時は父の店で部品販売業を手伝いながらレース車両を造ることを覚えました。クロスカントリーレースはトラブルが付きものなので、ドライバーも車のことを知っている必要があるんですね。だから本当に色々な人に車の造り方を教わりながら夜な夜な車をいじっていました。AXCRで走ったパジェロも自分で製作した車なんですよ。やっぱり自分で造るとどこがウィークポイントなのか、どうして壊れたのかなどよくわかるし、だからこそ壊さないような運転ができる。壊れても人のせいにできない(笑)、それは小さな頃から父親に強く言われてきたことですね。やっぱりいくら車が悪くても操っているのは自分なんだから、悪い状態でもゴールまで運ぶのがドライバーの仕事なんだと叩き込まれました。

18歳で出場したAXCRでは赤星代表とタッグを組み無事完走を果たす

ジャオスとの出会いと夢のレース

 18歳で海外ラリーに出場して順風満帆に見えたレース人生ですが、2008年以降はほとんどレース活動ができなくなりました。それはリーマンショックやディーゼル規制などが重なり、周りの状況が急変したからなんです。2010年はAXCRに出場しましたが、それ以外にレース活動らしいことは無く、道が途絶えてしまった絶望感から少し自暴自棄にもなっていました。そんな中でも2012年あたりから盛り上がってきたジムニーを使ったタイムトライアル「JSTC」に参戦しながら父のショップの仕事を一生懸命やっていました。そんな折、ジャオスの30周年事業として2015年にTEAM JAOSが発足され赤星代表から「AXCRに参戦するから行かないか?」と誘われたんです。ただしドライバーではなくメカニックとして。葛藤を抱えながらメカニックとして現場に行ったものの「ドライバーとして車に乗りたい」って多分毎日のように赤星に言ってたんですね(笑)。そうしたら来年もTEAM JAOSの活動を継続するからドライバーやってみるか?それならいっそ社員になるか?と誘われまして。父の店を離れて迷惑を掛けること、初めて北海道を出て群馬に行くことなどすごく悩みましたけど、親も夢に向かって前進する僕を応援してくれたこともありジャオスに入ることを決めたんです。
 「BAJA1000」という世界屈指の過酷な歴史あるオフロードレースがありまして、僕は中学生の時に初めて現地へ観戦に行ったんです。そこで見たオフロードの本場がもう衝撃的すぎて、いつか自分も絶対このレースに出てやろうと決意を固めていました。高校生になってからも知り合いのチームにメカニックとして帯同していましたが、いざドライバーとして出場となると予算的に難しいレースなのでプライベーターではやはり無理でした。そんな長年の夢だったレースに今年TEAM JAOSで参戦することになり、自分もドライバーとして出場するんです。願っていれば夢は叶うんですね。

2015年はメカニックとして

HUMAN TALK Vol.284(エンケイニュース2022年8月号)に掲載

未知の世界に 挑戦し続ける---[その2]

 中学生の頃から憧れていた「BAJA1000」。そこへの出場が決まるまでにはさまざまな紆余曲折がありました。2020年にジャオスがTOYO TIRESとパートナーシップ契約を結ぶことになり、さぁこれからって時にコロナ禍でレース活動を休止せざるを得なくなってしまったんです。ジャオスの商品を好きになってもらいファンを獲得する、そんなブランディングの一環と信じてレース活動ができているのにレース自体が無くなってしまうというツラい状況が続きました。ところが翌2021年、私がTOYO TIRES『OPEN COUNTRY』のブランドアンバサダーに就任することになり、それを契機にアメリカで開催される全米最長のオフロードレース「Best In The Desert Vegas to Reno」へ挑戦することになったんです。

「Best In The Desert Vegas to Reno」では荒野を駆け抜けた。

LX600で BAJA1000へ参戦

 「Vegas to Reno」はおよそ500マイル(約800km)の荒野をほぼノンストップで駆け抜ける過酷なレースです。結果は残念ながらゴール直前でリタイヤとなりましたが、アメリカの大地を走るという意味では得難い経験となりました。そんな矢先に舞い込んできたのがLEXUS LX600(以下、新型LX)で「BAJA 1000」にチャレンジするという話でした。私は中学生の頃から「BAJA1000」への出場を夢見ていましたし、ジャオスとしては北米市場の本格的な拡大を視野に入れたプロモーションを考えていました。LEXUSは元々アメリカで始まったブランドですし、新型LXに“OFFROAD”という名を冠したモデルまで設定して本格クロスカントリーのイメージも打ち出していきたい。それぞれの想いがパズルのように合致して今回のプロジェクトが動き始めたんです。普通ならランクルで出場すればいいじゃないですか。そこをLEXUSの新型LXで出るからインパクトがあるし、話題にもなる。きっと日本だけじゃなく、北米や中東でも話題を呼ぶんじゃないかと期待しています。

LEXUS LX600 "OFFROAD" TEAM JAOS 2022 ver.

新たな扉を開き続ける

 出場するのはストックフルクラスという改造範囲が非常に制限されたクラスです。他のクラスはパイプフレームでサスペンションストロークが1メートルあるようなモンスターみたいなマシンばっかり。そんな車がゴロゴロいる中で、サスペンションアーム等も純正ですからね。エンジン、ミッション、CPUも変更NGのクラスですからミッションもオートマ(AT)ですし。ただタイヤはインチアップしたり大径タイヤに変えてもいいので、エンケイと共同開発した「TRIBE CROSS」に私がブランドアンバサダーを努めるTOYO TIRESの『OPEN COUNTRY』を履く予定です。また砂塵が凄まじいので、さすがにエアクリーナーは変えてもいいんですけど、最近の車はセンサーや電子制御が緻密なので、ヘタに変えるとどんな影響を及ぼすかやってみないとわからない怖さがあるんです。メーカーの方に聞いてもそもそもそんな状況を想定してませんから(笑)、もう課題だらけ。本当に許されているのはボディの補強とタイヤサイズの変更くらい、ほぼ市販のままです。逆に言えばベースとなる新型LXの堅牢性やオフロード走破性能を私たちが走ることで証明できるわけです。モンスターみたいなマシンでさえ完走するのが約50%と言われる過酷なレースに、ほぼノーマルで挑む。でもハードルが高ければ高いほど面白いし、だからこそ完走できたら本当にすごいことだと思います。
 私自身も北海道にいた頃に比べれば経験的にも人間的にも少しづつ成長してきている実感はあります。「BAJA1000」に出場できるなんてあの頃には想像もできなかった。それが現在進行形で起こっている。振り返ればレース活動がうまくいかず自暴自棄になっていた頃もあったり、メカニックとしてレースに帯同してモヤモヤしたりといろんなことがあったけど、やり続けることでジャンプできたというか、幸運が重なって今チャレンジができているんだなって。繰り返しになりますがレース活動を会社のブランディングに繋げることで、それが成功すれば更に次、その次へ広がると信じてます。挑戦しなければ新たな扉も開かないですから。
 「BAJA1000」は11月に開催されます。TEAM JAOSを応援よろしくお願いいたします。

エンケイとの共同開発ホイール「JAOS TRIBE CROSS」。

2022東京オートサロンではTOYO TIRESブースにてトークショーを行った。

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